古本を買ったらサイン本

 普通の読書ではないですが、私は碁や将棋の本をよく読みます。読むというよりは勉強ということで、自宅にいれば碁盤や将棋盤を前にして、出先であれば頭の中でがんばって(これは難しいですが)ということになります。

 先日、こういう本の中古本をネット書店で買ったところ、著者の先生のサイン本でした。安倍先生という囲碁の方の先生のもので、どのくらい珍しいのかは分かりませんが、ラッキーでした。リアルの古書店だったら、少し値段が上がっていたかも知れませんが、今回の本は定価の半額以下でした。しっかり勉強させていただきます。

善行で救われた禅僧:菊池寛の「恩讐の彼方に」

菊池寛芥川龍之介などと同時代の作家ですが、芥川龍之介を純文学の代表とすれば、菊池寛は大衆文学の代表というように見られています。この「恩讐の彼方に」は彼の出世作ですが、罪と償い、復讐、という重いテーマで書かれていて、考えさせられます。翌年に書かれた「真珠夫人」などとは、ずいぶん違った趣の作品となっています。芥川賞直木賞を創設したりといったことだけでなく、創作面でも多才だったのでしょう。

 

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この作品は、禅海という実在の禅僧の話に基づいて書かれたようです。主人を殺してしまった主人公は、逃げながらさらに悪事を重ねますが、居たたまれなくなり、出家して了海と名乗り(名前も似せています)諸国を回ります。その途中、川沿いの交通の難所で多くの命が失われているという話を聞き、洞門の開削を決意する……というお話です。後半は、復讐に燃える主人の息子も登場してクライマックスに突入していきます。

 

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出家してからしばらくしても了海は、どうしたら自分が犯してしまった悪事の償いができるのか分からずに、とても悩んでいました。そんな時に考えついたのが、洞門を開削して人助けをするということなのですが、面白いのは「数勘定」ということです。「一年に十人を救えば、十年には百人」というようなことで、少し単純な感じもしますが、これが追い詰められていた了海に希望を与えたのでしょう。

 

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恩讐の彼方に」は、文庫本などの書籍もたくさん出ていますが、無料の青空文庫を利用することもできます。ブラウザでそのままHTML版を読むこともできますが、エキスパンドブックファイル(ebk)に対応していますので、電子ブックリーダーに入れると読みやすくなります。KindleやKoboなどの電子書籍でも、無料本として登録されていますので、そちらを利用するのもよいでしょう。

 

菊池寛恩讐の彼方に」1919年